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2019-02-28

良い品質たる適当な落とし所

「品質には拘りたい」「クオリティが高いね」など、我々はしばしば口にします。その割に「品質」や「高品質」の定義はなされないまま、言葉だけがぼんやり行き交う常態です。現在から未来へアプローチするとき、製品、商品、サービス、コンテンツ、情報等全てに共通するテーマなわけで、経営者、事業家はこの問いを避けて通ることはできません。それぞれに品質に対する思い思いの考え方やイメージがあって、特に技術者や職人 : 営業やマネジメントとの間では拠って立つ役割も大きく違い、自ずと発想の起点は異なるはずです。さらに、最終的に品質を判断するのは消費者ですから、作り手やベンダーが宿したものを受け取って価値を感じお金を払うかは、内輪の苦労話とは全く別の問題です。このあたり、プロダクトアウトとマーケットインをシナジーした体系的な方法論が出てきても良さそうなもんですけどね。芸術作品なら話は別でしょうが、いくら好きなブランドであっても品質の閾値を超えてくれないと永いお付き合いには成りにくいですし、翻って商売も難しくなるわけです。品質が良い事、それ自体に異を唱える人も居ないでしょうから、論点としては皆がハッピーになる「良い品質たる適当な落とし所」を都度探し当てることでしょう。

私が考えるに、高品質の定義を上位概念から並べますと(考えは暫定的で更新されます)、

1.愛情に基づいて創造されたもの
2.尊敬・敬意に基づいて創造されたもの
3.良心に嘘をつかず創造されたもの
4.オーディエンスに心の豊かさや気づき、新たな視点を創出するもの
5.実体価値、世界観、ブランド価値、安全保障、コミュニケーション、流通、価格の均衡が保たれているもの

◆以下、補足
→1.については“真の母性”という答えに近いかもしれません。それを我が子に与えたいか。
→2.は尊重、マナー
→3.自らに誠実・正直、徹底されていること
→4.社会的な景観に寄与すること
→5.価格を構成する原価・その他の費用・利益を開示しても受け入れられるか?

以上は製造される事で、流通される事で、消費される事で、利用される事で、リサイクルされる事で、廃棄される事で、社会空間に存在する事で、人の五感に触れる事で、二次・三次情報として、少なくとも社会や世の中を悪くしないという担保が条件です。そして繰り返しになりますが、これらは作り手、ベンダー側の視点や態度であり、そうした姿勢から生み出されたものに、購買という評価を与えるかは消費者に委ねられています。

私の仮説を別の角度から延長しますと、高品質である事は、時間、手間、資本、技術、安全性、機能、要素、コンプライアンスを定性的・定量的に注入したものであればあるほど良い、あるいはそうした要素の基準値をクリアしたもの、という事が必ずしもあてはまらない」と考えざるを得ません。格安飲食チェーンやコンビニエンスストア、鉄道インフラなど薄利多売な業種の現場で過剰・理不尽な要求をする利用者を見ていると、品質を定義せずに詰め込めるだけ詰め込んできた日本社会、日本経済の歪みが随所に現象化し、前線で働く人たち、立場の弱い人たちを傷め続けています。これでは社会や環境が維持できなくなります。競合に負けじと繰り返されたゼロサム合戦の中、過剰な品質と低価格に安堵することはコモディティであれば陥りがちでしょうけど、昨今そうした哲学なき思考停止に嫌気を持つ“理知的”な消費者も増えてきているように思うのですよ。

究極に安全で美味しい牛乳が自動的に高品質と言えるのかは悩ましいところです。とある畜産商品開発の際も、とても合理的とは思えない手間を注ぎ、結果として旨味成分が飛び抜けた豚の品種改良に成功しましたが、こうした経済活動が本当に世の中にとって良い事なのかも疑問が残ります。しかしながら際限ない欲望に過剰に対応した商品やサービス、利便性を追求して人間を結果、白痴に導くようなテック系エスカレート商品が、何やら大量の広告をバラまき、既成事実と居直って錯覚を生み、高品質と理解されてしまうような風潮の中、私の考えるような高品質の定義で果たして成立するのか、受け入れられるかは(特に食やテック系の分野において顕著だと思いますが)作り手や消費者の意識の変化に時間がかかるかもしれません。あるいは当たり前だった物事は実は脆い共同幻想の上に成り立っていただけで、一度崩れ始めると堰を切って当たり前を呑み込み様相が一変した時か。とんでもないテクノロジーが人間生活のルールを変えるかもしれませんし。

“真の母性”とは時に厳しく、節度を要求するものでもあると思います。
高品質とは何か?ケースやシチュエーション、背景や文化、時代によって最適解が異なる複雑なパズル。試行錯誤しながらも信念に従って探求し続ける他ありません。
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